リィンフォーサー 主要人物 エスタ・リーガン(17)…主人公。世界中でも数少ない「鎧剣使い(リィンフォーサー)」の素質を持っている。 エイブラハム・ノキス(32)…「鎧剣使い」の一人。断罪官として多くの犯罪者を葬っている。 アルナ・レット(15)…エスタの幼馴染で町長の娘。エスタに好意を抱くも、中々素直になれないでいる。 パック・レット(17)…アルナの兄。エスタとは親友で、よく大きな仕事を見つけては回している。 レアード・ブルネーゼ(27)…世界政府の若きエリート断罪官。エイブラハムの相棒。 アスター・ローンド(37)…? アルベルト暦511年 大陸の北西部、比較的裕福な此の地域に其の少年は暮らしていた。 母親は既に他界していたが、大らかで優しい父親の元で彼は逞しく育った。 少年の名はエスタ。 5歳から剣の修行を続けて早10年。 今では大人顔負けの剣士だ。 もう巨大な獣も一人で狩れるし、生活には困らない。 やや大雑把だが友人も多く、幸せに暮らしていた。 そんな中、父親の突然の死が訪れ、彼は一人で暮らさねばならなくなった。 少し寂しかったが、何時までも悲しんでは居られない。 明日はまたやって来るのだ。 アルベルト暦512年 「おーい!エスター!」 「ん?どうした、パック。」 「大変だ!西の外れに盗賊団が住み着いたらしいんだ!」 「盗賊か…久々に稼げるな…」 父の死から一年が過ぎ、エスタはますます強くなった。 16歳にして、幾つもの依頼が来る傭兵に成る程だった。 今日も友人のパックがやって来た。 依頼は盗賊団の退治。 最近小さな依頼ばかりで退屈していたので、エスタは二つ返事で引き受ける事にした。 「さてと…場所はあそこだな。」 早速準備を整え、盗賊のアジトらしき洞穴に近付く。 どうやら人数は情報通りの6人。 大した相手では無さそうだった。 「ちっ、たった6人かよ…此れじゃあ二日分のメシ代にも成りゃしねえ…」 「さっさと終わらせるか…」 腰に下げた剣に手を掛け、タイミングを計る。 1…2…さ 「誰だ!テメェ!」 不意に背後から声が響く。 どうやらもう1人居たらしい。 こうなると色々とまずい…中の連中も気付いて直に出てくるだろう。 雑魚とはいえ、7人と奇襲無しで戦うのはさすがのエスタでもきつい。 体格の関係もあるが、そもそも人間という生き物的に限界がある。 どうしたものかと考えるも、あまり時間は無い。 やるしかなかった… ―数十分後 「あ、エスタだ!」 「おお!って事は片付いたのか?」 「さっすがエスタだな!」 エスタは全くの無傷で帰って来た。 奇襲に失敗し、真っ向から戦う事に成っても完全に勝利したのだ。 「お前すげーよ!情報ミスで7人だったんだろ?パックが慌ててたぜ?俺なら絶対無理だね!」 「へへっ!ま、ザコばっかだったしな!」 「おお、言うねえ!」 友人と騒ぐエスタの元に、一人の少女が近付いて来た。 「ちょっとアンタ。」 「ん?なんだよ?」 「随分天狗さんに成ってるみたいだけど?それくらい誰だって出来るんだからね!」 「はいはい…」 「ふん!」 少女は言うだけ言って去っていった。 彼女の名はアルナ。 このペレトンの町長の娘で、エスタとは幼馴染だ。 エスタが活躍する度に罵声を浴びせ、去っていく… もう何回目だか分からない程で、エスタも慣れっこだ。 「おいおい、相変わらずだな…」 「エスタが頑張って何が悪いってんだよなあ!」 「町長の娘だからって威張ってるのさ!エスタも気にすんなよ!」 仲間が騒ぐがエスタは勿論気にしない。 「ま、いつもの事さ…んじゃ、報酬貰うからまたな!」 さっさと皆と別れ、依頼人…つまりパックの元へ急ぐ。 町の最奥、町長の家にパックは居る。 そう、パックは町長の息子で、あのアルナの兄なのだ。 昔からエスタとは仲が良く、大きな仕事がやって来ると優先的に回してくれる。 パックからすれば、エスタの仕事の成功率は高いから安心できる。 二人は互いに支え合う形なのだ。 「さてと…あいつに見つかるとまたうるせえからな…」 あいつとは勿論アルナの事だ。 が、「うるさい」の意味合いは先程とは若干違ったりする。 「裏口から…で良いよな?」 こそこそ隠れる町の英雄。 全ては自分の為に… 「へへっ、さあてと…どぶごおお!!」 妙な雄叫びを上げながら崩れる町の英雄… 「…何やっているのかしら?」 現れたのは噂のアルナお嬢様。 此れでは本末転倒である。 「てめー…こいつはやり過ぎだろ!」 ついにエスタも怒った。 「ふん!こそこそしないで正面から入ればいいのに、バカやってるからそうなるのよ!」 「ちっ…」 「…ほら、さっさと入りなさいよ!」 「…おう。」 そしてようやくレット家に入れたエスタだが、予想通りの地獄が始まった。 「大体ね!幼馴染なんだから、遠慮する事は無いのよ!もっと気楽に…あんまり来られても困るけど!」 「…ああ。」 「それに!私と滅多に会わないからあなたの実力が分からなくて、思わずあんな事言っちゃうのよ!たまにはその…ねえ!」 「…ああ。」 「うちに来ても兄さんとばっかり話してるし…私の存在も忘れない欲しいものだわ!」 「…ああ。」 「もうすぐ…その…私の…だけど…忘れてないかななんて…その…」 「…ああ。」 所謂「ツンデレ」な態度で話すアルナと、(どうせ聞こえていないから)適当に流すエスタ。 毎度毎度、此の様な面倒くさいやりとりを繰り返しているので、エスタは嫌で嫌で仕方が無かったのだ。 真っ直ぐ歩けば一分もかからずに着くパックの部屋まで、五分かけてようやく着いた。 同時にアルナは我に返った様にエスタを(何故か)睨み、撤退。 此処でエスタは初めて自由に動けるのだ。 「はあ…いつもの事だけど…やっぱ疲れる。」 エスタは肩を落としてパックの部屋に入った。 「よう、お疲れさん!」 パックは笑顔でエスタを迎えた。 彼は此の時、最大限に彼を労わる事にした。 目の前の親友が自分の持ってきた仕事と、自分の妹が原因で疲れ果てているのを(いつもの事なので)知っているからだ。 「ふう…で、今回の報酬は?」 「んー…こっちの情報ミスで一人多かったからな…ちょいと色付けて800出そうか。」 「お、良いのか!?」 「ああ。あと、こいつもやるよ。」 「ん?中々良い肉だな。」 「俺からって事でな!ヒェルボ産のティーブ肉だ、美味いぞ。」 「へへ、サンキュ!ありがたく貰ってくぜ。」 「此方としても依頼完遂の面目が保てるし、損は無い。お前は本当に頼れるよ…また頼むな。」 「おう、任せとけ!」 大抵の町では代表者が依頼を受けて、自分の町の傭兵や賞金稼ぎに仕事を回すシステムを取っている。 依頼者からの報酬は仲介人が受け取り、其の中から実行者に手数料を差し引いた分を支払うのだ。 其の「手数料」は当然、依頼の数が増えれば増える。 そして依頼を増やすには信頼が必要なのだ。 其の点、エスタの成功率は非常に高く、信頼を得るには一番なのだ。 「親友だから」と言うのも有るが、現実的な面でもパックは考えているのだ。 最近はパックの父…つまり現町長は病気がちで、実質パックが若くして町長の仕事をしている。 自分は何時、正式に町長に成るかも分からない。 そんな考えが彼を動かしていた。 「…そうだ、エスタ。」 「ん?」 もう帰ろうとしていたエスタが振り返る。 「お前さ、最近やたらと仕事欲しがっているよな?何かあるのか?」 「ああ、其れは…ってお前なら分からないか?」 「?」 「はあ…明後日、何の日だ?」 「…???」 「…アルナに殺されるぞ。」 「…ああ!そういう事か!」 明後日はアルナの誕生日なのだ。 町長の娘の誕生日という事で、其の日は町中を挙げてのパーティーに成るのだが…パックは忘れていた様だ。 エスタは毎年彼女にプレゼントを用意してきたが、お菓子ばかりあげれば良いものと思っていた所、去年に怒られてしまった。 其処で今年は仲の良い女の子達に訊いて回り、女の子が貰って嬉しいプレゼント一位であった「アクセサリー」をあげようと思ったのだ。 ちょうど隣町に良い店が在ると聞き、見に行ってみると此れが高い! 普段、生活出来れば良いや程度にしか考えずに稼いでいたエスタには手の届かない代物ばかりで、止むを得ず仕事を探していたのだ。 「まあ…何だ、一応幼馴染だしな。其れにやらないとまた煩いし。」 ツンデレアルナとは違ってエスタは別に好意等は抱いていない事を注意しておく。 「はは…本当に色々と悪いな…で、金は足りるのか?」 「うーん…生活費を考えると少しばかり足りないな。出来ればもう一つ仕事が欲しいが…流石にもう無いだろ?」 「そうか…ああ、確かに無いな。」 「やっぱか。」 此ればかりは仕方が無い。 エスタが諦めて帰ろうとした時… 「ちょっと待った!」 パックが大声を上げた。 「…(びっくりしたー…)どうした?」 「あったぜ!とびっきりのネタが!」 「お、本当かよ!?」 「ああ、依頼じゃないから忘れていたが、昨日情報屋のスティーブから聞いた話が有ったんだよ!」 「スティーブからって事は…狩りか?」 「ああ。」 情報屋にも色々居て、スティーブという男は何時も珍しい動物の話を持ってくるのだ。 「で、標的は?」 「さっき渡した奴だ。そういえばスティーブからの貰い物だった。」 「ティーブ肉…まさかブラックティーブ!?」 ブラックティーブとは、世界中に生息しているグレイティーブという肉食獣の変種で、其の美しい真っ黒な毛皮は貴重品として高値で取引 されている。 「ブラックティーブならアクセサリー代なんてもんじゃない!しばらく遊べるじゃないか!」 「ああ、其のブラックティーブが最近此の辺りで一匹目撃されたそうだ。未だ情報は此の辺りにしか出回っていないから、急げば邪魔され ずに狙えるんじゃないか?」 「おっしゃ!やってやるぜ!今日は流石にきついから、明日の朝一で行ってくらあ!」 「はは…まあ、頑張ってくれ。」 「おう、じゃあな!」 意気揚々としながら帰る町の英雄! 其の様子をずっと見ている影が一つ… 誰か?勿論アルナお嬢様だ。 「…ふーん、私の誕生日覚えていてくれたんだ。」 顔の真っ赤なお嬢様。 「えへへ…しかもアクセサリーくれるんだ…何かな?ネックレス?ブレスレット?其れとも…まさかね?えへへ…」 一人舞い上がるお嬢様。 「此れを期にけっ…けっ…何考えているの!?私ったら…ああもう!」 皆の前での態度は何処へやら、すっかり妄想少女と化したお嬢様。 「…」 そしてそんなおかしな妹を見て、軽く引いているお兄様。 楽しいレット家の一日はこうして過ぎて行く… ―翌日 朝も早くからナイフを研ぎ、眠り針や治療セットの準備をする町の英雄と、其れを影から見ているお嬢様。 ほぼストーカー状態で、通報されても文句の言えない状況のお嬢様。 エスタが今日狩りに出る事は盗み聞きで知っていた。 今日は、彼の実力を見てやろうと思ったのだ。 脳内では既に(勝手に)結婚が決まっており、夫に成る男の力を生で見たいという思いからだ。 正面からの1対7の戦いを、無傷でこなす等の超人的な活躍の真実を知りたいという気持ちは前から有った。 だが、周囲の目も有るからほいほい付いて行く訳にも行かず(己のプライドの為)、チャンスを伺っていたのだ。 今回の話なら、朝一で出るから目撃者も居ない。 例え数人居たとしても、其れくらいなら見つからずに突破出来る。 最早お嬢様の思考では無いが、今のアルナにはそんな事を考えている脳は無い。 今は如何にエスタを知るかだけが彼女を動かしている。 「あ…出た!」 出発と同時にストーキングを開始するお嬢様。 全く気付かずに鼻歌を歌いながら歩く町の英雄。 平和をしみじみ感じる様なありふれ…てはいないが、問題はあまり無い状況。 誰が予想しただろうか? 此処から大惨事に繋がる事など… 続く