リィンフォーサー 主要人物 エスタ・リーガン(17)…主人公。世界中でも数少ない「鎧剣使い(リィンフォーサー)」の素質を持っている。 エイブラハム・ノキス(32)…「鎧剣使い」の一人。断罪官として多くの犯罪者を葬っている。 アルナ・レット(15)…エスタの幼馴染で町長の娘。エスタに好意を抱くも、中々素直になれないでいる。 パック・レット(17)…アルナの兄。エスタとは親友で、よく大きな仕事を見つけては回している。 レアード・ブルネーゼ(27)…世界政府の若きエリート断罪官。エイブラハムの相棒。 アスター・ローンド(37)…? 前回までのあらすじ ペレトン町の英雄エスタは幼馴染のアルナの誕生日プレゼントを買う為に、金を稼いでいた。 アルナの兄、パックより耳寄りの情報を得て、希少なブラックティーブを狩りに出掛けるエスタと、其れを尾けるアルナ。 あ、訂正が一点。 設定で、剣と魔法の世界とか書いちゃいましたが、魔法は「鎧剣」と、「治療」しか無いと思って下さい。 火を出したり雷を落としたりは出来ません。 そして巨大な真空波がドカーンてのもありませんよ。 中途半端に現実的な作者なもので… っと、あらすじとか言って半分以上が訂正に成ってしまいました。 まあお気になさらず、では本編をどうぞ。 ―レンメル平原・岩場 「よし、此の辺りだな…」 ペレトン町より南西、隣町ランデルとの間に広がる小さな平原。 其の岩場でエスタは徐に荷物を広げた。 ブラックティーブはグレイティーブより若干力が強く、付近のグレイティーブを従え、群れを作る事が多い。 規模にも依るが、群れをまとめて相手にするのは流石のエスタでもきつい。 単純な分、統率はしっかり取れており、息のあった一斉攻撃は脅威だ。 特にティーブは肉食動物の中でも危険度が高い。 如何に効率良く標的を狩る為に、色々と準備が必要なのだ。 「噂には聞いていたけれど…こんなに早くから準備しなきゃいけないなんて…狩りって面倒なのね…」 少し離れた木陰から様子を伺っているお嬢様は退屈し始めていた。 現場に到着してから既に30分。 エスタは未だ、カチャカチャと準備をしている。 「よし、こんなもんか!」 ようやく終わった作業。 グレイティーブとブラックティーブは色以外にはほとんど同じだが、力の様に若干違う部分が有る。 其れは食べ物だ。 グレイティーブは果物を見つけると、肉より優先して食べる傾向が有り、ブラックティーブは肉しか食べないのだ。 そんな特性を活かした罠を、延々とエスタは作っていた。 巣と思われる洞穴から出て、西側の窪みにブラックティーブが最も好む、草食動物クロロの肉を仕掛けた。 そして東側の森へ続く道に、グレイティーブ用の果物を段々遠ざかる様に配置。 さらに、鼻から毛皮を狙わない(傷ついても構わない)グレイティーブの罠には、足止めをする為の仕掛けを幾つも施した。 こうしてブラックティーブだけを群れから切り離し、孤立した所で眠り針を打ち込み、トドメをゆっくりと刺す。 毛皮をより多く、綺麗に回収する為の手の込んだ準備。 かなり面倒だが、見返りは大きい。 最近躍起になってこなした多くの仕事の報酬の総量よりも、ブラックティーブの毛皮は高く売れる。 アルナへのプレゼントを買っても、十二分に手元に残るのだ。 「さあ…来いよ…!!」 ―二時間経過 「…退屈ね。」 獲物を待ち、集中しているエスタは良いが、其れを傍観しているアルナはかなり暇だった。 一応、暇潰し用の本も持ってきたが、一冊しか持ってこなかったのは失敗であった。 あっとう間に読み終わり、もう一時間以上もぼーっとしていた。 「よくこんな事出来るわ…って、あれ?ちょっと!ブラックティーブじゃない!?」 エスタより先にアルナが獲物を見つけてしまった。 しかも、罠とは逆方向からエスタに近付いている。 「ええ!?此れは大変だわ!ちょっと!気付きなさいよ〜」 自分が飛び出して伝える訳にもいかない、そんな事をしたら尾けた事がバレてしまう。 「来い…来い…!!」 エスタは罠方面しか見ていない。 後ろから来る確率だって当然ある事を、浮かれてか完全に忘れている。 と、其の時だった。 グレイティーブの一匹が、小さくグルルと呻いたのだ。 咄嗟に振り向くペレトンの英雄。 そして驚き、後悔するペレトンの英雄。 「げえ!お帰り中かよ!クッソ!」 ティーブ達はエスタの予想よりもずっと早くに行動を始めており、丁度巣穴に帰る最中だったのだ。 全ての罠が無駄に成った今、ティーブ達とは正面からぶつからなければならない。 相手は12匹もの大群。 はっきり言って最悪の状況だ。 「…どうする?アレを…いや、二日連続は流石にまずい…!正攻法で…やってやる!」 こう成れば、毛皮が取れるだけで良い。 そう考えるしか無かった。 ジリジリと寄って来る獣の群れに、何時でも対応出来る様に剣を抜く。 「さあ…貴方の力を見せて貰うわ!」 木陰のお嬢様も勝手に気合が入っている。 「…ふん!」 右側の6匹の内の二匹が飛び掛って来ると同時に、エスタは左に陣取っていた三匹に斬りかかった! 一撃で二匹の首を長剣で跳ね飛ばし、一匹は左手の短剣を投げて仕留める。 そして、空振りして隙だらけの二匹を素早く斬った。 一瞬にして五匹を斬り捨てたエスタであったが、中央から飛び出してきた三匹に対応し切れず、脇腹に手痛い一撃を貰ってしまった。 「クソ…やっぱ多過ぎるぜ…」 絶体絶命。 相手は未だ七匹居ると言うのに、此方は最早負傷。 「…チッ!」 エスタの表情が変わった。 ティーブ達も本能で感じたのか、若干後退りをした。 エスタの右腕に力が篭り、長剣の表面がビキビキと音を立てている。 「特別大サービスだ…オラァ!!」 雄叫びと共にエスタは中距離から剣を振るった。 同時に、長剣を結晶の様な物が覆う。 グァオオォゥ!!! 響いたグレイティーブの鳴き声は襲い掛かる声ではなかった。 …悲鳴であったのだ。 ビキ…ビキ… エスタの長剣の表面は結晶の様な物でびっしりと覆われ、倒れたグレイティーブの頭部は微塵に吹き飛んでいた。 「あ…え…?えええ!?」 全てを見ていたアルナだが、状況の理解にはしがらくかかった。 エスタが長剣を振るった瞬間、結晶の幾つかがグレイティーブ目掛けて飛び、頭部に突き刺さると同時に炸裂! 一瞬にして葬ったのだ。 其の力は正に異能! 普通の人間がどうこう出来る代物で無いのは火を見るよりも明らかだった。 「…鎧剣使い(リィンフォーサー)?エスタが?」 世界中にたった二つだけ存在する異能、鎧剣(リィンフォース)と治療(ヒール)。 それぞれ世界中でも100人ずつ居るか居ないかという神秘の力を、アルナは目の当たりにしたのだ。 しかも、鎧剣使いは其のほとんどが世界政府の断罪官として働いているというのに、此のエスタはフリーで存在している。 何もかもが信じられない事だらけで、お嬢様の脳内は大混乱だ。 「んっ…でぃやあぁぁぁーー!!」 アルナが呆気に取られている内に、結晶で覆われた長剣で二匹を斬り裂き、次の瞬間には結晶が薄広く展開、巨大な盾と成って襲い来る獣 の牙や爪を防ぐペレトンの英雄。 彼の異常な活躍の影には、鎧剣というカラクリが在ったのだ。 また異能も凄まじいが、其れを自由自在に使いこなすエスタの技量も相当なもの。 能力と体が一体化しているがこそ、あれだけの活躍が出来たのだ。 其の光景に世間知らずのお嬢様は、唯々、呆然とするしか出来なかった。 「オラァ!」 さらにグレイティーブを斬り、ついに孤立したブラックティーブと対面したエスタ。 精神力を消費する鎧剣を消し、長剣を短剣に持ち帰ると、一閃! 牙を剥いた獣の首を切り落とした… 「…」 アルナは無言で去った。 兎に角、落ち着く事を優先したのだ。 小さな町の中で何不自由無く育ったお嬢様には、今回の事実ラッシュは厳しかった様だ。 すぐ近くでそんな事に成っているとは露知らず、エスタは上機嫌でブラックティーブの皮を剥いでいた。 ついでに非常食にしようと肉も切り取り、後には内臓と骨だけが残った。 「ふう…二日連続はやっちまったが…思ったよりキレイに皮取れたし、いっか!」 早速換金する為、ランデルに向かうエスタ。 ペレトンには高級品を取引出来る程の施設が無い為、此ればかりは仕方の無い事だった。 一方、放心状態でふらついていたアルナはと言うと、ペレトンとランデルの丁度真ん中に位置する廃墟に居た。 元はそこそこに大きな町だったのだが、何年も前に強盗団の襲撃を受け、壊滅した跡地だ。 今では寄り付く人も居なく、一人で居たい人間にはぴったりであった。 「はあ…エスタがまさか鎧剣使いだったなんて…しかもアレって政府の役員に見つかったらまずいんじゃないの?」 「ずっとおかしいとは思っていたけれど…私、どうすれば良いんだろう?」 一人で悩むお嬢様。 黙っていれば何ら問題は無いのだが、未来の夫(と決めている)がと考えると、どうしても悩んでしまう。 ずっと隠して生きていくのだろうか? 私は秘密を守れるだろうか? そんな考えが頭から離れない。 「どうしよう…うーん…一旦帰ろうかな…」 30分瞑想してみたが、未だ混乱は収まらない。 だが、一人ではどうしようもないと思い、彼女は歩き出した。 そんな時だった… 「…え?人の…声?」 微かに耳に入った音、其れは間違いなく人の声だった。 距離は有るのだろうが、荒い息遣いだと分かる。 声の主は何かから逃げている様だ… 「何だろう…?ちょっとだけ…うん、ちょっとだけ見てみよう。」 少しでも気を紛らわそうと、声の聞こえた方に近付くお嬢様。 十分に警戒しながら、物陰から物陰へと移って行く。 だが、彼女の此の行為こそ、致命的な失敗だった。 未だ誰も知らない… 此れから途轍もない惨劇が起こる事を… 続く