リィンフォーサー第二部、オッドジョブス・ローンド編 主要人物 エスタ・リーガン(17)…主人公。世界中でも数少ない異能者・鎧剣使い(リィンフォーサー)。             故郷、友人等を全て失い、成り行きからオッドジョブス・ローンドの一員と成る。             人前では明るく前向きだが、異能者である自分が周囲を不幸にしているのではないかと思っており、余り人と深             く関わらない様にしているらしい。 アスター・ローンド(37)…オッドジョブス・ローンドのリーダー。              異能者ではないが、並の断罪官程度であれば楽に勝てる程の実力者。              リーダーでありながら、担当は大剣を使っての前衛。 スネーク・グリーン(30)…オッドジョブス・ローンドの一員。              ひょうひょうとしていてノリも軽いが、アスターの右腕的存在で実力は高い。              槍と弓の使い手で、中衛から後衛まで幅広く戦える。 ベロニカ・エルム(28)…オッドジョブス・ローンドの紅一点。             異能者・治療師(ヒーラー)である為、表情と年齢を失っている。             本人曰く、「私はとても感情的」らしい。 レアード・ブルネーゼ(27)…世界政府の若きエリート断罪官。               エスタに命を救われており、何かと協力してくれる。 第一話・新たなる邂逅 レモンド暦1年 あのペレトンの惨劇から一ヶ月が経過しようとしていた。 若き異能の剣士は屈強な男と二人、無限に広がっているかの様な大砂漠を横断していた。 「アスターさん、此の砂漠…何処まで続いているんですか?もう二日も砂漠を彷徨っている気が…」 「何だ、もうバテたか?なーに、今日中にはザガイルに着くさ。もうちょっとなんだから気合入れろ!」 「は、はい…」 今にも潰れそうな若者。 彼こそが物語の主人公であり、かつてはペレトンの英雄と謳われた腕利きの傭兵、エスタ・リーガンだ。 傭兵とは言ってもこなしてきた仕事は動物相手のハンティングや、精々小規模の盗賊団の退治くらいであったが。 そもそもペレトンの英雄なんて大層な肩書きを持っちゃあいますが、世界中で見ても辺境の地の特に端っこの小さな町の英雄程度。 世界規模で見れば、まだまだひよっこな訳です。 「ん、ちょっとしたオアシスが在るな。よし、小休憩だ。」 アスターの言葉に安心する元英雄、現下っ端。 世界中でも中々に有名な何でも屋「オッドジョブス・ローンド」。 其のリーダーとして世界各地を巡ったベテランのアスターからスカウトされて付いて来たのは良いけれど、まさか一ヶ月も「移動」に費や すとは若くして傭兵をしていたエスタも思わなかった。 しかも、危険だ危険だと幼少時代から周りの大人達が忠告してきたシェンデン砂漠を徒歩で横断して。 「ええと、此処を越えて今夜はザガイルに泊まって…最終的に何処まで行くんでしたっけ?」 エスタは地図を見て頭を抱えている。 「此の地図で言うと…おう、此処だな。西の大都市ラフィスタイン。早くてあと二週間ってトコか。」 「はあ…まだまだ遠いんですね…」 ペレトン跡を出発し、山を越え草原を横断、途中で幾つかの集落で休憩しながら来たものの、此処一週間はまともな場所で寝ていない。 エスタにはオンボロでも自宅の安布団ですら、今では素晴らしかったと思えた。 「ザガイルはそこそこしっかりした都市だ。此の砂漠を越える旅人達が必ず寄るからな、発展もするってもんだ。」 「其処で、他のメンバーと合流するんでしたっけ?」 「おう。俺がペレトンから戻るまで、ザガイル付近の依頼を少しでも処理しとけって言ってあるから暇はしてねえだろう。もう二ヶ月か…」 懐かしむ様に空を見上げるアスター。 そう、彼には仲間が居る。 其れも、「オッドジョブス・ローンド」を有名にするのに貢献して来た猛者が。 「合流したら先ずは紹介だな。そしたら直ぐにでもラフィスタインに向かう。悪いがあんまりゆっくりもしてられないんでな。」 「ええ。初仕事になりますが…頑張ります!!」 「其の意気だ。おし!行くぞ!!」 再出発し、歩き続ける事五時間。 ようやく最初の目的地である交易都市、ザガイルに到着した。 ペレトンどころか、ランデルですら比べ物にならない程の大きな町並みに、田舎者の異能者は唖然とした。 「な…こ…此れが町…!?凄ぇ…」 「お前、ホントにあの辺りから出た事無いんだな…仕方無ぇ、宿まで真っ直ぐ向かうがペースを少し落としてやる。着くまで町並みをしっ  かり見とけ。」 「は、はい…」 「半端に聞いて無ぇな…」 呆れる上司と呆ける部下。 しばらくして、町の中央に位置する宿に着いた。 何でもアスター曰く、ザガイルでは安めの宿らしい。 しかし、其の安めの宿ですらパックの家より大きいというのはどうだろう? 相変わらずエスタは唖然とするばかりで、最早何の音も彼の耳には入らなかった。 「何つーか…兎に角凄ぇよ…何もかもが凄ぇ…どうとも例え様が無い位凄ぇ…」 「おい!何時までもボキャブラリーの無い事言ってんじゃねえ!!着いたぞ!!」 「…え?は、はい!すんません!!」 やっと意識を取り戻し、エスタは暖簾を潜って中に入った。 内部もやはり広く、危うく意識をまた失う所であったが、アスターが其の前に指示を出したのでどうにか免れた。 「ったく…あんまりキョロキョロばっかすんなよ?もう直ぐに仲間が来る。何時までもぼぅっとしてると仲間として認められねえぞ?」 「すんません…何かちょっと浮かれちゃって…」 「ま、分からなくは無ぇけどよ。ん、来たみたいだな。」 ガチャリとドアノブが回り、木製のドアが開く。 現れたのは長身の痩せた男と、無表情の少女だった。 「(あれ?此の人達がアスターさんの仲間?大して強く無さそうな…俺って結構期待の新人ってヤツなのかもな…)」 見た目で判断するのは早計だが、確かに二人ともとても猛者には見えない。 「久し振りッスね〜、ボス!」 「二ヶ月振りね。」 話し方も見た目通り。 益々エスタの中で自分の位置が上がって行く。 「っと、そいつが例のルーキーですかい?」 痩せ男がへらへらしながら言う。 「紹介をお願い。」 無表情女がぼそっと呟く。 「おう、そうだな!こいつはペレトンで拾ったエスタだ。ほれ、自己紹介!」 アスターが軽く小突く。 「はい。エスタ・リーガンです!ペレトンで傭兵やってました。17っす!」 取り敢えず元気に挨拶をしておく事にしたエスタ。 相手は一応先輩だ、実力は兎も角(エスタが勝手に自分より弱いと思っているだけだが)、礼儀は忘れてはいけないと思ったのだ。 「おう、ヨロシク〜。俺っちはスネーク・グリーンだ。呼ぶ時はスネークでいいぜ〜。」 「私はベロニカ・エルム。宜しく。」 スネークと言う痩せ男とベロニカと言う無表情女。 二人の自己紹介も終わった所で、アスターの顔が険しくなった。 「さて、此れで名前はいいだろう。此処からが本題だ。」 同時にスネークの顔も締まる…ベロニカは無表情の侭、変わらなかったが。 「俺がこいつを拾ったのには大きな意味が有る。こいつは…鎧剣使い(リィンフォーサー)だ。」 「…成る程。其れでこんなガキを拾ったんスか。」 「…」 場が凍る。 どうやら二人とも、アスターが何か「変わった者」を連れて来る事は予測していた様だ。 「こいつの力は絶対に必要だ。そう言う訳で、二人とも仲良くやってくれ…特にベロニカ。」 「そうね。」 「…特に?」 不思議がる異能者の新人にスネークが近付く。 「よォ、ルーキー…エスタだったか。まァ、ベロニカちゃんについては色々話して知ると良いさ…だがな…」 「!?」 突如としてスネークの表情が鋭くなる…正に蛇の様に。 「ベロニカちゃんに手ェ出してみろ…殺すからな。」 「な…」 「んじゃーな♪ボス、今日の仕事の報酬貰って来ますわ。」 あっという間に元のヘラヘラした顔に戻ると、スネークは其の侭部屋を出て行ってしまった。 垣間見せた彼の本性…其れは、エスタに自分の位置を最下位に落とす程の恐怖であった。 「さて、俺は移動手段を手配して来る。今日は此処に泊まって明日の朝一で出るからな。しっかり休んでおけよ。」 そしてアスターまでも消えた。 「(ええと…ベロニカさんだったな…何を話せば良いんだ?しかもさっきのスネークさん…アレはかなりヤバい!!危ねぇよ…俺、嘗めて掛   かってた…)」 突然色々な情報が入って混乱するエスタ。 そんな彼を見かねてか、ベロニカから口を開いた。 「ねえ、貴方も異能者なのよね。」 「は、はい…ってベロニカさんもなんですか!?」 「そうよ。鎧剣使いじゃないけど。」 「って事は…治療師(ヒーラー)ですか?」 「ええ。」 治療師(ヒーラー)。 其れは破壊の鎧剣使い(リィンフォーサー)と対になる癒しの異能だ。 原理は不明だが、光で対象の傷、病気等を治せるらしい。 ほとんどの治療師は修道院に属し、全てに公平な存在として訪れる者を善悪問わずに癒している。 「全てに公平」と言う立場を表しているのか、治療師は皆一様に表情と表向きの感情、そして年齢と欲を失っており、常に若くて無表情だ。 治療師だと知った地点で、エスタはベロニカの無表情が理解出来た。 「私が所属していた修道院は十年前に滅ぼされてしまったの。たまたまアスターさんに拾われて、今に至っているわ。」 「俺は…所属はその…能力を隠して来たんでしてなかったんですけど、住んでた町をある男に消されてしまって…」 「ええ、噂で聞いたわ。此の町でも大騒ぎだったもの。そう、貴方がペレトンの生き残りだったのね。」 「何か俺達境遇が似てますね…異能者同士、宜しくお願いします。」 「ええ、宜しく。でもスネークには気を付けてね。へらへらしてるけど、強いから。しかも私に惚れていて、下手に私と親しくし過ぎると  焼きもちを焼いて怒るから。」 「そ、そうなんですか…分かりました!」 「あと、彼はロリコンじゃないわ。私は28。彼は30。年齢は近いの。」 「はあ…」 意外に多弁なベロニカに驚きつつも、スネークには人一倍気を付けようと誓うエスタだった。 「あと、私は結構感情的だから。慣れたら或る程度は理解してね。」 「はい…(何時まで続くんだ…)」 三時間後にようやくベロニカが部屋から出て行き、エスタは色々な意味で疲れて眠りに入った… 個性的な仲間が現れ、ようやく本格的に動き出したオッドジョブス・ローンド一行。 果たして西の大都市ラフィスタインには何が待っているのか? 続く…